月に一度の観察

思索

現在住んでいるマンションは築25年、顔見知りの住人も年上ばかりである。

聞けば数年前の住民会議で、貸店舗部分にクリニックが入ることになった。

就任した医師は、高齢にして大柄な先生だった。
一度診察を受けた際には、左手にゴルフグローブの日焼け跡がくっきりとあった。

穏やかな先生だったが、看護師さんの補助を受ける場面を見て、私は駅前の病院に通うことにした。

そのクリニックは、ガランとしていた。

コロナ禍になったある日、娘は発熱と喉の痛みを訴えた。当時は予約をしないと診てもらえかったが、調べるとこのクリニックでは受診が可能だった。

先生は「それは仕方ないですね」と豪快に笑ったという。

その少し前にコロナに罹った私は、別の病院を受診していた。

そこの先生は防護服みたいな格好で診察していて、その神経質すぎる姿を見て、私は恐ろしく不安になった。

その反動は大きかったのだろう。

私は後に健康診断にひっかかり、高齢の先生の診察を受けるようになった。

そしてその後、先生は前触れもなく、突然引退されたのだった。

 

次に先生が決まるまで3ヶ月はかかった。

次に来られたのは自治医大出身の、離島勤務を経た、40歳前後の先生だった。

それまで内科だけだったクリニックは、皮膚科や小児科など診療科目が増え、以前は対応しなかった予防接種にも対応するようになった。

診察はとても丁寧だった。
ただ、皮膚科についてだけは、診察室でインターネット検索をする。難しい症状になれば専門医に紹介状も書いてくれる。誠実だけど合理性も持つ若い先生は、今時を絵に描いたような人だ。

離島勤務を経験した先生は経営的にも、このクリニックを何とか軌道に乗せようと奮闘しているようだ。診察はとにかく血液検査と薬が多い。「こんなに薬を飲んでもいいんでしょうか」と先生に聞くと、「皆さんもっと飲んでますよ」と平然と答える。しかし私は気に掛かる。先生の普通は本当に普通なのだろうか。

 

このクリニックは、とにかく広い。

廊下の奥にある部屋には扉がない。ある時、クリニックには似つかない”派手でゴージャスな壁紙”が貼られた。「あの場所で一体何をするのかな?」私は中待ちで待つ間、気になっていた。それは、クリニックで待つ時間が増えた証でもあった。

先日、マンションのポストにクリニックのチラシが入った。

先生は肥満治療を始めていた。

さらに裏面を見ると、幹細胞治療ラボの広告が載っていた。

廊下の奥にある、あの花柄の部屋はラボ。

注射は一本、1回6万円。

それが今だけ18,000円の特別価格になっていた。

 

この数年を振り返ると、このクリニックの様子はずいぶん変わった。高齢医師による静かな地域医療は訪問介護までしていたが、それも今はなくなり、今では美容や再生医療まで扱うようになった。

数年後、このクリニックがどんな場所になっているのか。

月に一度通い、私は半分患者として、半分は小さな経営の変化を観察することを楽しんでいる。

 

そして、あの先生はまだ、ゴルフを楽しんでいるのだろうか。